名古屋高等裁判所 昭和41年(行コ)15号 判決 1967年11月14日
岐阜県羽島市竹鼻町二〇八番地
控訴人
株式会社 大仏百貨堂
右代表者代表取締役
片野義一
右訴訟代理人弁護士
石原金三
同
下村登
同
野尻力
名古屋市中区南外堀町六丁目一番地
被控訴人
名古屋国税局長
坂野常和
岐阜市加納水野町四丁目二二番地
被控訴人
岐阜南税務署長
渡辺栄
右両名指定代理人検事
川本権祐
同
法務事務官 加藤利一
同
服部勝
同
大蔵事務官 川村俊一
同
竹内雄也
被控訴人名古屋国税局長指定代理人
大蔵事務官
市川有久
被控訴人岐阜南税務署長指定代理人
大蔵事務官
塚原和男
同
越知崇好
右当事者間の昭和四一年(行コ)第一五号審査決定取消等請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「(一)原判決を取消す。(二)被控訴人名古屋国税局長が控訴人の昭和三五年一〇月一日から昭和三六年九月三〇日までの事業年度分の法人税および源泉徴収所得税につき昭和三八年八月二三日付でなした各審査決定を取消す。(三)被控訴人岐阜南税務署長が控訴人の右法人税および源泉徴収所得税につき昭和三七年五月三一日付でなした更正および決定ならびに同年八月二一日付でなした各再調査決定は、いずれも、これを取消す。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および書証の認否は、次に附加するもののほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一、控訴代理人の陳述
(一) 本件補償金は訴外片野義一が単独で取得すべきものであつた。すなわち、同訴外人は訴外永田佐吉から昭和二〇年八月右補償金の対象となつた建物を借受けて、これに居住するとともに、同所において雑貨類販売業を営み、同年九月右永田佐吉の死亡後はその遺族(右片野の妻の母および兄弟)の生活を補助し、修繕費も一切右片野が負担していたもので、昭和三三年三月控訴会社が設立された(当時の商号は株式会社大仏百貨サービスセンター)際にも、右建物を補修改造するための銀行借入金は結局訴外永田稔が負担し、控訴人は右建物を賃借人たる片野から転借したに過ぎず、右建物で営業を開始するに際し実質的には同建物を使用するための支出を何らしていない。のみならず、右建物から立退くに際しても、営業を休止することなく、円滑に右片野の所有建物に移転し、移転による損害は殆んどなかつた。
したがつて右建物の占有権原、占有期間および移転による損失の何れの点からみても、本件補償金が片野に対してのみ与えられるべきものであり、かつ同人が単独で取得したものであることが明白である。
(二) かりに本件補償金の一部が控訴人に帰属すべきものであるとしても、前記の諸事実を勘案するときは、右補償金を取得すべき割合は片野が八割、控訴人が二割とするのが相当である。
(三) かりに右の主張も理由がないとしても、被控訴人らの主張する金一六六万円は賞与と認定すべきものでなく、片野に対する貸付金と認められるべきである。
(四) 控訴人は旧法人税法第三一条の三所定の行為または計算をした者に該当しないから、法人税を不当に免れ、もしくは減少させたものではない。したがつて被控訴人らが本件処分および審査決定にあたり同条を適用したのは違法である。
二、証拠として、控訴代理人は甲第三号証を提出し、当審における控訴人代表者本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人は甲第三号証の成立を認めると述べた。
理由
当裁判所の判断によつても控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。その理由は、次に附加する点を除くほか原判決の説示するとおりで当審に顕われた証拠をもつても、右認定を左右するに足らないから、原判決の理由記載を引用する。
(一) 前記(原判決理由二、)甲第一号証および乙第三号証によれば、片野義一は十六銀行との間に本件建物の明渡に関する交渉をなすにあたり、単に自己個人のためのみならず控訴会社代表者としても折衝し、同銀行に対し右両者が昭和三六年一月三一日までに本件建物から退去することを約すとともに、右両者のために同銀行から本件補償金を受領したものであることを認めることができ、原審証人永田稔の証言および当審における控訴人代表者本人尋問の結果中右の認定に反する部分は前記各証拠に比して措信し難く、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 当審における控訴人代表者本人尋問の結果およびこれにより片野義一作成名義部分の成立を認めうる甲第二号証のうち、本件建物の約定賃料月額は金一万円であつた旨の各供述および記載部分は、成立に争いのない乙四号証の三、四および同第一二号証の四の各記載に比して措信し難い。
(三) 前記甲第二号証、原審証人永田稔の証言および前記控訴人代表者本人尋問の結果中には、本件建物の賃借人は片野義一であり、控訴人は右片野からその一部を転借したものである旨の記載ないし供述部分が存し、他方前記乙第四号証の三、四および同第一二号証の四によれば、控訴人の決算書類には本件建物の賃借人は控訴人であり、控訴人から片野義一に対しその一部が転貸されたものとして損益計算がなされていることを認めることができる。しかし、いずれが真実であるにせよ、右乙第四号証の三、四によれば控訴人の本件事業年度中に本件建物の賃料として控訴人および片野が負担した金額は、それぞれ金一九四、〇〇〇円および金四八、〇〇〇円であることを認めうるのであつて、成立に争いのない乙第五号証中、右決算書類に控訴人が支払つた賃貸料(賃借料の誤記と思われる)として記載されているのは事実に反し、実際は永田稔の負債を控訴人が代つて月賦弁済したものである旨の記載部分は、前記証人永田稔の証言に比して措信し難い。
(四) 控訴人は、控訴人が本件建物を立退くに際し蒙つた損失は殆んどなかつた旨主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はなく、かえつて当審における控訴人代表者本人尋問の結果によれば、控訴人は本件建物において約八二平方メートル(約二五坪)の売場面積を有したが、移転後の売場面積は約四九平方メートル(約一五坪)に縮小され、かつ取扱品目も減少するに至つた事実を認めることができ、右の事実によれば控訴人は本件建物から立退くことにより現実に相当額の売上高の減少を招いたものと推認することができ、かかる損失は当然本件補償の対象とされたものと解することができる。
(五) 控訴人は本件補償金を取得すべき割合は控訴人が二割、片野が八割とするのが相当であると主張するが、本件全証拠によつても右の主張を認めるに足る根拠を発見しえないから、右の主張も理由がない。
(六) また控訴人は、被控訴人名古屋国税局長によつて片野に対する賞与と認定された金一六六万円は片野に対する貸金である旨主張するが、かかる事実を認めるべき証拠は何ら存しないから右の主張も理由がない。
(七) 次に控訴人は、控訴人は本件補償金について旧法人税法第三一条の三所定の行為または計算をした者に該らないから、本件更正決定については同条を適用すべきでない旨主張するが、控訴人が同族会社であること、本件法人税につき控訴人が提出した確定申告書および決算書類中に被控訴人ら主張の欠損金が記載され、かつ被控訴人ら主張の売掛金および繰越欠損金が各記載洩れとなつていることは、いずれも当事者間に争いがなく、また右確定申告書類中には本件補償金収入が全く記載されておらず、また借入金一五四万円が不当に記載されているところ、控訴人は本件年度内において金三二〇万円の補償金収入を得たものであることは、上記(原判決理由説示)認定のとおりである。したがつて右確定申告についてはまさに旧法人税法第三一条の三を適用すべきものであるから、控訴人の右の主張もまた理由がない。
以上の次第で当裁判所の判断と結論を同じくする原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし控訴費用につき民事訴訟法第九五条、第八九条に従つて、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 神谷敏夫 裁判官 松本重美 裁判官 大和勇美)